2015年に浜松市で発生した5人死傷事件では、一審で懲役8年となった中国籍女性に対し、東京高裁が2019年に逆転無罪を言い渡しました。
この控訴審で裁判長を務めたのが、当時東京高裁部総括判事だった朝山芳史氏です。
逆転無罪となった主な理由は「意識を失うことを予見できなかったから」ではありません。
東京高裁は、事件当時に被告人の統合失調症の症状が悪化しており、刑事責任を問えない「心神喪失」の状態だったと判断しました。
まず、事件と判決の流れを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件発生 | 2015年5月2日 |
| 場所 | 静岡県浜松市の交差点 |
| 被告人 | 中国籍の女性 |
| 被害 | 1人死亡・4人負傷 |
| 起訴罪名 | 殺人・殺人未遂など |
| 一審 | 懲役8年 |
| 控訴審 | 一審破棄・無罪 |
| 控訴審裁判長 | 朝山芳史氏 |
| 主な争点 | 事件当時の刑事責任能力 |
朝山芳史氏が裁判長を務めた浜松5人死傷事件
朝山芳史氏が裁判長を務めた浜松5人死傷事件についてまとめていきます。
浜松5人死傷事件の概要
事件が発生したのは2015年5月2日です。
浜松市のJR浜松駅近くの交差点で、中国籍女性が運転する乗用車が赤信号を無視して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた歩行者を次々とはねました。
この事件で女性1人が死亡し、4人が負傷しました。
被告人は殺人、殺人未遂などの罪に問われています。
| 事件の概要 | 確認できる内容 |
|---|---|
| 発生日 | 2015年5月2日 |
| 車両 | 乗用車 |
| 交差点への進入 | 赤信号を無視して進入 |
| 死亡 | 1人 |
| 負傷 | 4人 |
| 被告人の国籍 | 中国籍 |
【用語解説】裁判員裁判とは、一般市民から選ばれた裁判員が裁判官とともに刑事裁判の審理に参加し、有罪・無罪や刑罰について判断する制度です。
一審は殺意と完全責任能力を認めて懲役8年
2017年11月24日、静岡地裁浜松支部の裁判員裁判は、被告人に懲役8年を言い渡しました。
検察側の求刑も懲役8年でした。
弁護側は、事件当時の被告人は統合失調症による心神喪失状態だったとして無罪を主張していました。
これに対し一審は、殺意と完全責任能力を認めました。
東京高裁は一審を破棄して逆転無罪
2019年8月29日、朝山芳史氏が裁判長を務めた東京高裁は、一審の懲役8年判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡しました。
東京高裁は、精神科医の意見書などを踏まえ、事件当日は統合失調症の症状が悪化した状態にあったと判断しました。
報道では、被告人は当時「緊張病性興奮」の状態にあり、行動を制御する能力などが著しく低下していたと指摘されています。
その上で、事件当時は心神喪失の状態だったと判断し、完全責任能力を認めた一審判決には事実誤認があるとして破棄しました。
| 審級 | 責任能力についての判断 | 判決 |
|---|---|---|
| 静岡地裁浜松支部 | 完全責任能力を認定 | 懲役8年 |
| 東京高裁 | 心神喪失と判断 | 一審破棄・無罪 |
無罪理由は「意識消失の予見可能性」ではない
この事件について、「突然意識を失うことを予見できなかったため無罪になった」と説明されることがありますが、今回確認した浜松5人死傷事件の報道内容とは一致しません。
この裁判で争われた中心的な問題は、被告人が事件当時に刑事責任能力を有していたかどうかです。
被告人が運転中に突然意識を失ったことについて過失を問えるかどうか、というタイプの交通事故裁判とは論点が異なります。
心神喪失と刑法39条
刑法39条1項では「心神喪失者の行為は、罰しない」と規定されています。
そのため、重大な結果が発生していても、犯罪行為時に心神喪失だったと裁判所が認定した場合には、刑事責任を問わないという結論になることがあります。
浜松5人死傷事件で一審と二審の判断が分かれたポイント
一審と控訴審では、同じ事件について責任能力の評価が異なりました。
| ポイント | 一審 | 控訴審 |
|---|---|---|
| 統合失調症 | 罹患していたことを前提に審理 | 罹患していたことを前提に審理 |
| 事件への影響 | 完全責任能力を否定するほどではないと判断 | 事件当日は症状が悪化していたと判断 |
| 責任能力 | 完全責任能力あり | 心神喪失 |
| 結論 | 懲役8年 | 無罪 |
このように、事件そのものが発生したかどうかではなく、被告人の事件当時の精神状態と、それが刑事責任能力にどの程度影響していたかについて判断が分かれました。
朝山芳史氏の経歴と学歴
朝山芳史氏は、東京高裁部総括判事などを務めた元裁判官です。
基本プロフィール
| 項目 | 確認できる内容 |
|---|---|
| 名前 | 朝山 芳史(あさやま よしふみ) |
| 生年月日 | 1955年5月2日 |
| 出身大学 | 東京大学法学部 |
| 司法修習 | 第33期 |
| 裁判官任官 | 1981年4月7日 |
| 退官時の役職 | 東京高裁部総括判事 |
| 定年退官 | 2020年5月2日 |
| 上智大学教授 | 2021年4月~2026年3月 |
なお、公開されている経歴資料では出身大学は確認できますが、出身地について信頼できる資料を確認できないため、ここでは記載していません。
裁判官としての主な経歴
確認できる主な異動歴は次の通りです。
| 時期 | 役職 |
|---|---|
| 1981年 | 東京地裁判事補 |
| 1983年 | 最高裁刑事局付 |
| 1985年 | 岡山地裁判事補 |
| 1986年 | 岡山地家裁判事補 |
| 1989年 | 大阪地裁判事補 |
| 1991年 | 大阪地裁判事 |
| 1992年 | 東京地裁判事 |
| 1995年 | 那覇地家裁沖縄支部部総括判事 |
| 1996年 | 那覇地家裁沖縄支部長 |
| 1999年 | 最高裁判所調査官 |
| 2003年 | 大阪地裁部総括判事 |
| 2006年 | 東京地裁部総括判事 |
| 2010年 | 横浜地裁部総括判事 |
| 2013年 | 高知地方・家庭裁判所長 |
| 2015年 | 東京高裁部総括判事 |
| 2020年5月 | 定年退官 |
元の記事にあった「京都地方裁判所判事」「大阪高等裁判所判事」「宇都宮地方裁判所所長」という経歴は、今回確認した異動記録とは一致しません。
東京大学法学部を卒業
研究者情報によると、朝山氏は1974年から1979年まで東京大学法学部第1類に在籍しています。
その後、第33期司法修習を経て1981年に裁判官へ任官しました。
元記事に記載されていた「第34期・1982年任官」ではありません。
年収や現在の収入は公表されていない
朝山氏本人の年収や退職金、現在の収入額を示す公的な資料は確認できません。
裁判官の報酬自体は「裁判官の報酬等に関する法律」に基づいて定められていますが、それだけから朝山氏個人の年間所得や退職金を正確に計算することはできません。
| 収入に関する情報 | 確認状況 |
|---|---|
| 裁判官の報酬制度 | 法律で規定 |
| 朝山氏個人の年収 | 公表資料を確認できない |
| 退職金 | 本人の具体的金額は確認できない |
| 大学教授時代の給与 | 本人の具体的金額は確認できない |
| 現在の収入 | 確認できない |
そのため、「現在の年収は1,600万円~2,500万円」などと具体的な数字を推定することは避けます。
朝山芳史氏が関わったほかの注目事件
朝山芳史氏が関わったほかの注目事件についてもまとめていきます。
東名高速あおり運転事件
朝山氏は、2017年に発生した東名高速あおり運転事件の控訴審でも裁判長を務めました。
一審の横浜地裁は危険運転致死傷罪などを認め、被告人に懲役18年を言い渡しました。
2019年12月6日、朝山氏が裁判長を務めた東京高裁は、この一審判決を破棄して横浜地裁へ差し戻しました。
ただし、東京高裁が「危険運転致死傷罪は成立しない」と判断して被告人を無罪にしたわけではありません。
主に問題とされたのは、一審の公判前整理手続です。
一審裁判所が公判前に危険運転致死傷罪の成立について一定の見解を示していたにもかかわらず、その後見解を変更した際に弁護側へ十分な主張・立証の機会を与えなかったことが「不意打ち」に当たるとして、訴訟手続の違法を認めました。
| 東名あおり運転事件 | 内容 |
|---|---|
| 最初の一審 | 懲役18年 |
| 2019年東京高裁 | 一審破棄・横浜地裁へ差戻し |
| 危険運転成立について | 東京高裁は因果関係に関する一審の結論を是認 |
| 破棄の主な理由 | 一審の訴訟手続上の問題 |
| やり直し裁判 | 再び懲役18年 |
| 最終結果 | 2026年に懲役18年が確定 |
したがって、「朝山氏が東名あおり運転事件で刑を軽くした」という説明は正確ではありません。
乳腺外科医事件
朝山氏が裁判長を務めた合議体は、乳腺外科医が準強制わいせつ罪に問われた事件の控訴審にも関わっています。
一審の東京地裁は2019年、犯罪があったと認定するには合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡しました。
その後、朝山氏が裁判長として審理に関わった東京高裁の合議体は、一審判決を破棄して懲役2年と判断しました。
朝山氏は2020年5月2日に定年退官していたため、同年7月13日の判決言い渡しは細田啓介裁判長が代読しています。
この東京高裁判決は2022年2月、最高裁によって破棄され、東京高裁に差し戻されました。
2025年3月の差戻し控訴審では無罪となり、東京高検が上告しなかったため無罪が確定しています。
| 時期 | 裁判 | 結果 |
|---|---|---|
| 2019年 | 東京地裁 | 無罪 |
| 2020年 | 東京高裁 | 一審破棄・懲役2年 |
| 2022年 | 最高裁 | 東京高裁判決を破棄・差戻し |
| 2025年 | 差戻し東京高裁 | 無罪 |
| 2025年3月 | 東京高検 | 上告せず無罪確定 |
最高裁が下級審判決を破棄した場合も、その理由は事件ごとに異なります。
そのため、「最高裁で覆った=担当裁判官に重大な論理的誤りがあった」と一律に評価するのではなく、最高裁が示した具体的な破棄理由を確認する必要があります。
朝山芳史氏の退官後の現在と活動
朝山氏は2020年5月2日に東京高裁部総括判事を定年退官しました。
上智大学教授は2026年3月まで
研究者情報によると、2021年4月から2026年3月まで上智大学法学研究科法曹養成専攻の教授を務めました。
刑事法、刑事訴訟法、刑事実務などに関する教育・研究に携わっています。
詳しい退官後の動きについては、朝山芳史氏の現在の活動状況をまとめた記事でも紹介されていますので、あわせてチェックしてみてください。
なお、2026年9月現在の記事で「現在は上智大学教授」とするのは古い情報です。
2026年の研究者情報では早稲田大学の所属を掲載
J-GLOBALの2026年4月5日更新情報では、朝山氏の所属機関・部署として「早稲田大学 法学研究科博士後期課程」が掲載されています。
研究分野は刑事法学です。
ただし、この情報には教授や弁護士といった職位・資格は記載されていません。
そのため、公開資料で確認できない「現在は弁護士として活動している」という記述はここでは行いません。
刑事法に関する論文・判例解説を発表
朝山氏は退官後、刑事法に関する論文や判例解説を発表しています。
| 年 | 主な執筆内容 |
|---|---|
| 2022年 | 裁判員裁判 |
| 2023年 | 最高裁判例と裁判員裁判―正当防衛をめぐって |
| 2024年 | 控訴審による破棄自判と事実の取調べ |
| 2024年 | 公判前整理手続における主張明示と被告人質問 |
| 2025年 | 違法収集証拠排除法則の回顧、現状と展望 |
このことから、退官後も刑事法に関する研究・執筆を続けていることは確認できます。
朝山芳史氏について確認できる事実を整理
朝山氏については、過去の判決を理由としてSNS上でさまざまな評価が見られます。
ただし、判決結果から裁判官個人の思想や性格を推測することはできません。
| 内容 | 確認結果 |
|---|---|
| 浜松事件で控訴審裁判長を務めた | 確認できる |
| 中国籍女性に逆転無罪判決 | 確認できる |
| 無罪理由は心神喪失 | 確認できる |
| 意識消失の予見可能性が無罪理由 | 確認できない・事件内容と一致しない |
| 東名事件を地裁へ差し戻した | 確認できる |
| 乳腺外科医事件の控訴審に関与 | 確認できる |
| 「無罪判決を多く出す裁判官」 | 客観的な基準・統計なし |
| 特定の思想に基づいて判決していた | 裏付ける資料なし |
個別の判決に対する評価と、朝山氏本人の思想・人物像は分けて扱う必要があります。
朝山芳史交通事故逆転無罪に関するQ&A
最後によくある疑問について、ポイントを整理して回答していきます。
まとめ:浜松5人死傷事件の逆転無罪は責任能力が争点
| ポイント | 事実 |
|---|---|
| 事件 | 2015年の浜松5人死傷事件 |
| 被告人 | 中国籍女性 |
| 被害 | 1人死亡・4人負傷 |
| 一審 | 完全責任能力を認定し懲役8年 |
| 東京高裁 | 心神喪失と判断し逆転無罪 |
| 控訴審裁判長 | 朝山芳史氏 |
| 無罪の理由 | 意識消失の予見可能性ではなく刑事責任能力 |
| 朝山氏の退官 | 2020年5月2日 |
| 上智大学教授 | 2021年4月~2026年3月 |
浜松5人死傷事件では、一審と控訴審で被告人の刑事責任能力について異なる判断が示されました。
一審の静岡地裁浜松支部は完全責任能力を認め、殺人・殺人未遂などの罪で懲役8年を言い渡しました。
これに対し、朝山芳史氏が裁判長を務めた東京高裁は2019年8月29日、事件当時は統合失調症の症状が悪化し、心神喪失状態だったと判断して一審を破棄し、無罪を言い渡しました。
この事件の無罪理由を「意識を失うことを予見できなかったため」と説明するのは正確ではありません。
また、朝山氏は東名高速あおり運転事件や乳腺外科医事件の控訴審にも関わっていますが、それぞれ争点や破棄理由は異なります。
複数の判決をまとめて「被告人に甘い」「無罪を出す傾向がある」などと評価するのではなく、それぞれの判決理由を個別に確認する必要があります。
朝山氏は2020年に裁判官を定年退官し、2026年3月まで上智大学教授を務めました。現在については、研究者情報で刑事法学に関する研究・執筆活動を確認できます。

